はじめに
突然ですが、鍼灸施術という言葉を聞いたことがありますか?おそらく知らない人も多いのではないでしょうか。鍼灸施術とは、どのような施術を行い、どのようなことに効果的なのか?柔道整復師であり、鍼灸師でもある「東中野すまさん整骨院」の小島院長に詳しく解説してもらいました。
鍼灸とは
鍼灸施術とは、鍼や灸を用いて、主に「ツボ」と呼ばれる経穴に物理的な刺激を与えることによって起こる身体の反応を利用するもの。病気や症状の原因となる生体機能の変調を正して改善(キュア Cure)し、身体を癒し(ケア Care)て、疾病予防も行う施術法です。近年では多くの医療関係者が鍼灸に注目し、そのメカニズムについての研究も進められ、科学的根拠のある施術法としてWHO(世界保健機構)にも認められています。
鍼とは
鍼施術は通常、直径0.12mm~0.18mmのステンレス製ディスポーザブル鍼を使います。この鍼は注射針と同じく使い捨ての鍼で、一人の患者さんにのみ使用することで、感染を防止しています。さらに、日本では、江戸時代に開発された「管鍼法」という筒を用いた施術法が一般的であり、痛みをほとんど感じることなく刺入が可能です。
灸とは
灸施術とは、ヨモギの葉を乾燥させて葉の裏側の部分だけを集めた艾(もぐさ)を用いて熱刺激を与える施術法です。灸の刺激方法には皮膚上で直接艾を燃焼させる「直接灸」や、皮膚と艾の間に介在物を置いて艾を燃焼させる「間接灸」があります。間接灸はショウガやニンニク等を薄くスライスしたものの上で艾を燃焼させることで、薬効成分を皮膚に浸透させるとともに、火傷のような熱さを感じることもなく施術できます。市販のお灸の多くは、糊の付いた台座に円筒形の艾がのった台座灸で、これもまた間接灸の一種です。
鍼灸に関するよくある質問
小島院長に鍼灸に関する、よくある質問について教えてもらいました。
Q.鍼施術は痛いですか?
A.使用する鍼は0.12mm~0.18mmと、髪の毛と同じくらいの太さです。採血の注射器の太さが0.60〜0.80mm、接種時の痛みがほとんどないワクチン接種の針で0.33〜0.40mmですから、かなり細い鍼になります。また、注射針は組織を切開するために先端が刃のように斜めにカットされていますが、鍼施術の鍼は先端が丸みを帯びているため痛みを感じにくく、組織へのダメージも限りなく少なくなっています。
Q.鍼施術は安全ですか?
A.鍼は一本一本滅菌処理された使い捨ての鍼、鍼を乗せる鍼皿も滅菌処理された使い捨てのトレーを使用しています。手術時も刺入する手指と、施術部位への消毒により感染リスクはないとされています。このように感染防止対策は万全ですので、安全に鍼施術を受けていただけます。
Q.お灸は熱くないですか?
A.台座灸を使うことで心地よい温かさを感じながら施術を受けて頂けます。灸施術は必ずしも熱ければ効果が高いという訳ではありません。熱いと感じたら我慢せずに伝えていただければ、すぐに灸を除去しますのでご安心ください。
■鍼灸施術で期待できる効果
鍼灸施術は様々な効果があるといわれています。特に下記のような効果があります。
- 身体機能を調節する:機能低下している状態を活性化させる作用や、痛みなどの身体の機能が異常に亢進している状態を抑制させる作用が期待されます。
- 血行改善:肩こりなど血流が滞っている患部や症状と関連する部位への施術で、血行の改善が期待されます。
- 免疫力向上:細菌やウイルスなどが体内に侵入した際に身体を防御するのが白血球やリンパ球などの免疫細胞です。鍼灸施術により白血球の数を増やしたり、免疫細胞を活性化させたりすることにより、免疫力が向上し、病気の施術とともに病気になりにくい体質への改善が期待されます。
- 美容:鍼灸施術により新陳代謝を活発にして皮膚の機能改善をはかったり、顔面への刺激で表情筋を引き締めてリフトアップしたりする効果が期待されます。
また、上記でも記載しましたが、WHO(世界保健機関)が提唱した鍼灸の適応症が以下の項目です。
【神経系疾患】
神経痛・神経麻痺・痙攣・脳卒中後遺症・自律神経失調症・頭痛・めまい・不眠・神経症・ノイローゼ・ヒステリー
【運動器系疾患】
関節炎・リウマチ・頚肩腕症候群・頚椎捻挫後遺症・五十肩・腱鞘炎・腰痛・外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)
【循環器系疾患】
心臓神経症・動脈硬化症・高血圧低血圧症・動悸・息切れ
【呼吸器系疾患】
気管支炎・喘息・風邪および予防
【消化器系疾患】
胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾
【代謝内分秘系疾患】
バセドウ氏病・糖尿病・痛風・脚気・貧血
【生殖、泌尿器系疾患】
膀胱炎・尿道炎・性機能障害・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎
【婦人科系疾患】
更年期障害・乳腺炎・白帯下・生理痛・月経不順・冷え性・血の道・不妊
【耳鼻咽喉科系疾患】
中耳炎・耳鳴・難聴・メニエル氏病・鼻出血・鼻炎・ちくのう・咽喉頭炎・へんとう炎
【眼科系疾患】
眼精疲労・仮性近視・結膜炎・疲れ目・かすみ目・ものもらい
【小児科疾患】
小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・夜尿症・虚弱体質の改善
上記疾患のうち「神経痛・リウマチ・頚肩腕症候群・頚椎捻挫後遺症・五十肩・腰痛」の慢性症状について、鍼灸の健康保険の適用が認められています。
(鍼灸netより)
手技施術と鍼灸施術の違いとは?
手技施術にはあん摩、マッサージ、指圧などがあります。主に身体に手指を用いて刺激を与える(押す、さする、揉む、叩く、引っ張るなど)ことで、身体に反応が起こり症状改善や健康を増進させます。特に期待できる効果としては血液循環を改善し、新陳代謝を促進させることです。さらに、心地よい強さで押すことでストレスを解消するリラクゼーション効果も期待できます。
鍼灸施術は、手技ではほぐすことができない頑固なコリや深部の筋肉に効果的です。鍼や灸を行うことで血行改善による免疫機能の活性化を促し、自然治癒力を高める事が出来ます。手技施術と組み合わせると、より健康的な身体を目指すことができます。
鍼灸施術はどのようなところで受けられますか?
鍼灸施術をするには「はり師」「きゅう師」という国家資格が必要になります。鍼灸院、整骨院、鍼灸を取り入れている美容サロンなど、鍼灸師が働いているところで受けられます。全日本鍼灸学会の「鍼灸安全対策ガイドライン」に沿って施術しておりますのでご安心ください。
どんな方に鍼灸施術を受けてほしいですか?
肩こりや腰痛、美容など。最近ではテレワークによる疲労が蓄積された方も多いのではないでしょうか。とにかくお悩みを持つ方全員に受けてほしいと思います。西洋医学とは異なるアプローチをしているので、鍼灸で改善することもあります。ただし、ステロイドを内服している方、免疫抑制状態の方、肝硬変の方、ワーファリンを服用中の方などはリスクが高いので注意が必要です。
まとめ
西洋医学が症状の原因にアプローチするのに対し、鍼灸施術をはじめとした東洋医学は、身体全体のバランスが崩れる事で病気になり、そのバランスを整えることで「自然治癒力」を高めて病気を治すという考え方です。つまり鍼灸施術は病気になる前の「未病」の時点で症状が改善するので、病気予防や健康維持に役立つとのことでした。症状にお悩みの方、鍼灸施術に興味がある方は、一度鍼灸施術を受けてみましょう。
記事監修(敬称略)
本城久司
スマイルアンドサンキュー株式会社 統合医療教育研究センター長
京都府立医科大学大学院 泌尿器外科学 客員講師
医学博士(京都府立医大)